''『2004年 賃貸住宅経営最新事情』''(2004.5.20)
賃貸最新レポート
2004年 賃貸住宅経営最新事情
「借り手市場」を背景に、“新時代”的様相を見せる
2003年1~12月の1年間に全国で新設、着工されたアパート・マンションの貸家の数は45万1629戸(国土交通省調べ)で、前年比0.3%の伸び。1997年以降、過去6年で最高の増加となっています。
「借り手市場」「物件余り」「空き部屋発生」といわれながらも、この6年でなぜ最高の新設、着工となったのか…。ここに現在の賃貸住宅業界が直面する藷問題が集約されています。賃貸業界及び賃貸マーケットの舞台裏を追ってみました。
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昨今、なぜ賃貸経営がもてはやされ、投資マンション熱が高まっているのでしょう。それは、賃貸経営の魅力、メリット(特性)がはっきりしていて、投資対象としても“目に見えて”理解できるところにあります。昔からよく「年をとったらアパート・マンションの経営で飯が食べられたらいい」といわれる所以です。
自前の土地、あるいは新規に土地を購入して、そこにアパート、マンションを建てる、そして入居者を募って毎月の家賃を得る。つまり賃貸経営は分かりやすいビジネスで、いつでも、誰でも、どこでもできるところに特徴があって、これに引かれて始められるのです。
ビジネスにありがちな仕入れ、販売といった厳しい営業の局面がないことが、会社勤めしながらの片手間、あるいは自宅兼用のアパート・マンションを建てて賃貸経営を手がける契機になっています。
一般に土地オーナーが賃貸経営を始める理由としては、
◆手持ちの土地を活用したい
◆自宅の建て替えを機に小規模であっても賃貸住宅を併設したい
◆なんといっても賃貸経営は手堅い
◆知人が上手に経営(全部委託)している
というのが、ほぼ共通したところ。
一方、今日賃貸マーケットが置かれている状況、課題事項を整理すると、おおよそ次の10項目が挙げられます。
1.賃貸住宅へのニーズ一層高まる
2.賃貸経営の"静かなブーム"続く
3.投資・利殖マンション好調な売れ行き
4.物件の供給過剰感、借り手に有利な市場
5.空き部屋現象が全国的に蔓延
6.賃貸業界を取り巻く環境変化続く
7.ハウスメーカー、建設会社の積極攻勢
8.家賃滞納等のクレーム多発
9.管理業の重要性増す
10.原状回復トラブル各地で起こる
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さんざん指摘されている通り、バブル期以降、賃貸市場の状況が変わったのは確か。そのバブル経済がはじけて、失われた10年が過ぎ、市場は"新時代"的様相を見せています。では市場はどう変わっているのでしょうか。
一見ブームともとれる賃貸経営同様、投資・利殖マンションの好調な売れ行き。アパート・マンションの賃貸経営と同じ延長線上の発想で、年金への不安感、税制のメリット、低金利による割安感が手伝って、好立地の優良物件がよく売れています。
こうした投資・利殖マンションの実力(集客力)は、「企画→設計(施工)→販売→管理」のシステムが整備されて、機能しているかにかかっています。ですから、マンション購入(投資)後の約5年間で、どれだけの入居率をキープできるかで、真価が問われます。
賃貸住宅に対する投資は株式や債券に対する投資とは違って、極端な乱高下がないので、無茶苦茶なことは起きないのですが、期待できる利回りが達成できるかどうかは、景気の動向だけではなく、物件の競争力と管理会社の腕にかかっているのは間違いないところです。
バブル経済崩壊後、社会情勢が激変したこともあるのでしょうが、一生賃貸住宅で十分とする「賃貸派」が定着してきたのが、各種の調査・統計で立証されています。
『2002年度土地白書』でも、土地を「有利な資産」と考える人の割合は過去最低となり、国土交通省の意識調査でも、「借家でもかまわない」という層がこの10年来、最高の数にのぼっています。
今は賃貸でも、いつか持ち家をという意識が薄れ、これからも賃貸住宅で十分、何も無理してマイホームを持たなくてもいい、ただし、生活はより楽しくエンジョイしたいというもので、こうした意識の定着を背景として賃貸住宅の規模、拡大性は今後も期待できるといえそうです。
といって、楽観できる状態ではないことは、昨今の市場動向が物語る通りで、物件総量が増え、景気低迷を受けて借り手市場を形成し、市場が軟化しているのはよく知られている通りです。
ところでわが国の賃貸事情に対し、日本経済団体連合会が2003年6月にズバリ、『優良な賃貸住宅市場の整備』と題して、提言しています。
「借家ストックは持ち家に比べて質の面で著しく劣っており、賃貸住宅ストックは広さや質の点において、利用者のニーズに応えられる物件が少ない。とくにファミリー向けの優良な賃貸住宅ストックは、四大都市圏で著しく不足しており…」と、現状の課題点、賃貸マーケットの事実を突いています。
けれども、日本の賃貸住宅の供給と経営の大部分が民営、しかも中小零細の規模ですから、「狭い」「高い」を是正して、「質」を実現することは容易ではなく、この提言を賃貸業界に対する“指針”として見れば、今後に取り組むべき示唆に富んだ内容(方向性)であることは間違いありません。
いずれにしても、
社会情勢の変化から
↓
賃貸市場も変質して
↓
根強い賃貸住宅のニーズが生まれ、育っている
ので、この変化を先取りした商品、サービスの提供が、業界に求められていることは確かと思われます。
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また、この2、3年、賃貸業界に押し寄せた新しい変化の波に、
・リロケーションサービスの活性化
・コンバージョンビル(マンション)の建設始まる
・インターネットマンションの急速な普及
・スケルトン住宅の開発
などがあります。
新しい法律の施行や環境変化、新技術の開発等が相まって、新分野への動きが出てきたところで、これからマーケットのニーズを背景に、一層スピードアップしそうです。
入居者のニーズが多様化するとともに、賃貸住宅の品質、性能が年々レベルアップしているのですが、入居者のニーズに応えるハウスメーカー、建設会社の供給態勢が建設増を押し上げています。
アパート・マンションの企画・設計・施工を請け負うハウスメーカー、建設会社の新製品開発、あるいは提携ローンを投入したキメ細かい市場戦略が際立っています。
各社ともより特色を持たせた、市場のニーズを絞り込んだ商品開発で顧客の囲い込みに注力。それに伴い、構法、デザイン、設備等で内容の充実、レベルアップを果たし、賃貸住宅全体の質の向上を達成しています。
よくいわれるように、賃貸経営において「管理」の重要性は高く、国(国土交通省)も「賃貸管理業」の現況と今後の課題をまとめ、国民に分かりやすい業態、業界として成長するために多くの検討事項があるとの見解を提言しています。
賃貸経営を長期に行っていく上で、管理会社の果たす役割は小さくないのですが、賃貸経営者にとって現状の姿に、決して満足しているのではありません。年々賃貸ビジネスが高度化して難しくなっているだけに、管理会社の存在、重要性は今後ますます大きくなると思われます。
02年から03年にかけて多発した敷金返還がからんだ原状回復に関するトラブル。03年は、一気に裁判等が噴き出した感があります。業界では、無理、無茶は通らない、国土交通省の『原状回復をめぐるトラブルとガイドライン』が問題解決の判断基準になっている、との認識を深めています。
この『ガイドライン』は、04年2月に改訂。具体例を加えて、より分かりやすくまとめられて、トラブル対応の指針としての働きが期待されています。
一向に減らない原状回復・敷金問題に業を煮やして、借り手と貸し手が何を負担するのかを決めた「ルール」の策定を進めており、家主の恣意的な判断で左右されがちだった同問題に対して、行政の一歩踏み込んだ“指導”が表面化した感があります。
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