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「声さえあれば、みなそれぞれに見合った歌を歌うのさ」

☆エンジェルのほほえみ(花岡京子)


     「声さえあれば、みなそれぞれに見合った歌を歌うのさ」


 
   毎日使うパソコンのマウスパットは、アメリカ製の表がクロス張りのスポン
  ジ状で滑りがよく、すこぶる使い勝手がいい。表面にはルノワールの『舟遊び
  をする人たちの昼食』が印刷されていて、テキスト入力に疲れた目を休ませて
  くれます。読者の皆さんの部屋や身辺にもルノワールの複製画の1枚や2枚、
  きっとあると思うのですが、没して82年を経た今も、ルノワールの人気は衰え
  を見せていません。

   ご承知のとおり、ルノワール(1841〜1919)はフランス近代絵画の巨匠で、
  豊かな色彩を駆使して官能美あふれる人物像を次々と描き、当時、パリ画壇の
  印象派の中心的存在でした。ルノワールが陽だまりにいるような絵を描いてい
  る時代は、世紀末デカダンスの19世紀から第一次世界大戦、ロシア革命が起こ
  る20世紀初めの混沌とした激動の時。

   この時代に世界の文化の中心地と呼ばれたパリで、『陽を浴びる裸婦』『ム
  ーラン・ド・ラ・ギャレット』『シャルパンティエ夫人像』『テラスにて』『浴
  女たち』を描いていくのですが、こうした作品は単に印象派の巨匠が描く清新
  な作風、豊かな色彩、あふれる官能美……といった、言葉に置き換えて説明し
  きれない人間観あるいは世界観が見られます。

   ルノワール当人は、目にしたものを描いた結果が、観ていてうっとり心をさ
  らわれるほどの色使いとなります。『ムーラン・ド・ギャレット』や『舟遊び
  をする人たちの昼食』を観ていると、今にも画布の奥から人々の歓声が聞こえ
  てきそう。

   そのルノワールの晩年は、リウマチや息子2人の戦争による重傷もあって、
  いっそう美の世界にのめり込み、健康な生命感の躍動する有名な“浴女たち”
  シリーズに取り組んでいきます。

   本誌のコラムでなぜいきなりルノワールかといいますと、最近、ルノワール
  が語った「声さえあれば、みなそれぞれに見合った歌を歌うのさ」(『RENOIR』
  日本経済新聞社刊・小勝禮子訳)を見つけたので、皆さんにもご紹介しようと
  思ったからです。 


  2001.1.30

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