ピカソ「青の時代」が現代日本をイメージする
ピカソ「青の時代」が現代日本をイメージする
20世紀の美術界を代表する画家パブロ・ピカソは、“変貌の画家”と呼ばれ、
時代の変遷とともにめまぐるしい様式の変化を繰り返したことで知られていま
す。
1881(明治14)年スペインに生まれ、1990年19歳の時、パリに出て最初の個
展を開いた直後から始まるのが「青の時代」。その後「バラ色の時代」「立体
派」「キュービスム」「新古典主義」……と、激動する時代に歩調を合わせる
かのように、革新的作風を取り入れていきます。
その色調から「青の時代」と呼ばれる20歳代の前半に描かれた作品は、社会
の底辺の人達、弱者への眼差しを感じさせ、後の抽象画とはまた違う意味で印
象的です。青色を基調に、自画像やデフォルメした人物像を描いて憂鬱な深い
情感を漂わせている作品の数々をよくご存じの方も多いでしょう。
ほぼ100年前の、4年ほどの間に描かれた『自画像』『老いたギター弾き』
『アイロンをかける女』『つましい食事』が発散する孤独、悲しみ、失望、憂
鬱、静寂感は現代にも通じる”生の不安感”をいかんなく表しています。
人間の生きかたの普遍的なテーマをきっちり描いた芸術作品は、たとえ100
年であっても時の経過をものの見事に飛び越えているのです。作品の生命感を
全く失っていない。この先100年後もこれらの作品は、深い情感の漂う人間の
心情を映した抽象的なイメージとして、観る人の魂を揺さぶっていくと思われ
ます。
もし今、20歳過ぎの天才ピカソの多感な目で、日本の路上生活者を描いたと
したら、どんな絵になるのだろうかと考えてしまいます。時代背景も芸術観も
才能も全然違うので比較にならないのですが、美しいモデルや自然や花卉に題
材を求める現代作家の作品群を見ていると、描くべき対象物はもっとほかにあ
るのではないかと思ってしまうのです。
ピカソの「青の時代」というのは、何も20世紀初頭のパリに在ったのではな
く、100年後の21世紀の現在、日本の“今日的原風景”として見ても不思議で
はない臨場感を持っていないでしょうか。
(2001.2.27)