「タダより高いものはない」
賃貸「入居者事情」
「タダより高いものはない」
賃貸ビジネスの「原形」を見る思い
宮脇順一(仮名)さんは転勤で家族と一緒に千葉から大阪に引っ越してきました。会社は大阪の中心部、中央区の本町ですが、住居は奈良で、通勤に片道1時間20分ほどかかります。
職場にもっと近いマンションがいくらでもあったのですが、犬1匹、猫1匹が飼える賃貸となると、極端に物件の数が少なく、いきなり隣の県、奈良の田園風景に囲まれた土地となったもの。
木造モルタル5LDKで2階建ての戸建て。玄関が広く、南に面した庭も十分の広さがあり、周囲は田んぼの多いのんびりした土地柄で、まずは環境が気に入った。部屋はフスマ、畳ともに新調、壁は塗り替えられ、床のフローリングもクリーニングが行き届いてまずまずの状態。
そんな新居で始まった生活で、最初にぶつかった“壁”の一つが、トイレ。
汲み取り式ということで、これは当初から説明を受けていたのですが、いざ使い始めると現実的な問題が色々出てきて家族が参り始めた。第二に給湯器がイカレていて、フロのシャワーと台所のお湯を同時に使うとパンク状態。種火が消えて両方とも使えなくなる。
主だった“欠陥”はこの2ヵ所で、トイレの件はこの辺りが下水道の整備がなされておらず、事前に汲み取り式と聞いて承知して契約しているため、仕方ないのですが、給湯器は早々に修理をしてほしいと、引っ越して2日後に仲介してくれた不動産会社に電話を入れたのです。
しかし意気地のない不動産会社は、シャワーが利用できない入居者の気持ちを知る由もなく、「それでは連絡しておきます~」だけで、「責任を持って対応させていただきます~」の気概が前面に出てきません。
この後3ヵ月、宮脇さんは困り果て、最後はその1戸建て賃貸住宅を出て行くハメとなりました。
ここで大家さんの素顔を紹介しますと、大手の重機メーカーに勤めるサラリーマンで、この2階建ても以前は自分が住んでいた住居。新宅を購入して古い住居を賃貸に回す。このほかにも自宅を担保に約2,000万円の建て売り住宅を2戸購入し、これも賃貸に出している貸家3戸のサラリーマン大家さんです。
宮脇さんと不動産会社と大家さんのやり取りは、賃貸ビジネスの「原形」を見る思いがします。
1.入居者の苦情に対して不動産会社に真摯な姿勢が欠ける。営業が未熟なのか、顔が入居者に向かず、ほとんど貸主に向いてその場を取りつくろおうとする。
2.問題は特段何も難しいものではなく、調子の悪い給湯器を修理するか新調するか、それだけの話。
3.その修繕費を惜しむばかりに、修理も新調も後に回す。ガス給湯器ですから一つ間違うと事故につながりかねないので、本来素早い対応が望まれる性格のものです。
4.大きな勘違いの世界です。入居者が家賃を払っている限り、約束したサービスを提供する義務があることを貸主は忘れています。
5.仲介した不動産会社は媒介のプロとして、間に入って両者がうまくいくように調整するのが仕事。その前に業法通り契約に準じた対応が必要。
この場合、ガスの業者に来てもらって機器の修繕を手配することを貸主に促すのが役目なんですが、物件を続けて取り扱いたいので、貸主の機嫌を損ないたくないのか、強く出ない。
その証拠に、引っ越しの日にトラックに荷物を載せている宮脇さんの横で、貸主に向かって「すぐ次の入居者を見つけますから」と、平然と言う。一言、「給湯器は直しておいてくださいよ」ぐらい言えば、まだ賃貸ビジネスの精神が見えてくるのですが。
貸家の設備の調子が悪いと入居者からクレームが入る。ガスの専門業者に連絡すれば一発で解決するものを、この大家さんは自分でネジを締めたりゆるめたりして一時しのぎを繰り返す。
業を煮やした入居者はいい加減にしてくれと、プイと出ていく。入居者がいなくてはタダの空き家になる。月11万5,000円の家賃が入ってこない。
それにもかかわらず、不調のガス器具を修理しないで入居者を入れるのは、何か深謀遠慮の思惑でもあるのかと勘繰ってしまう。家賃は入ってこなくても敷き引き(解約金)が“稼げる”。
こんなことが続けば早晩悪評が立ち、自分の首を自分で締めることになるので、まさかそれが目的とは思われないが、要は修理に要する「必要経費」と一度入ったお金をしまい込む「財布の感覚」に問題があるのではありませんか。
修理費に数万円か、新調すれば20万~30万円がかかる。ネジを締めるだけで一時的に使えるのならタダ。
極力出費を抑えたい、そのために修理も取り替えもしない、という気持が先に立てば、結果、入居者を逃がすといった高い代償を払うことになり、タダより高いものはない、を地でいくことになってしま。
► 「一本釣りされた入居者」
► 「解約金が返ってこない」
► 「無類の“ペット好き入居者”」
► 「痴話喧嘩大騒動」
► 「賃借人であると同時に、大家さん」
► 「タダより高いものはない」